地産地消×脱炭素の切り札「富山県産スギ」が建築を変える

2025.05.15

国産材への関心が高まるなか、富山県産スギが再び注目を集めています。

かつては価格や供給の安定性を理由に、輸入木材が主流でした。しかし、輸入材価格の高騰やサステナビリティへの意識の高まりが、国産材の再評価を後押ししています。

その中でも富山県産スギは、環境配慮・政策支援・材料特性の3点において優れており、建築・住宅業界での活用が進んでいます。

本記事では、富山県産スギが今、選ばれる理由を解説し、建築設計や住宅建築の材料選定において有力な選択肢であることを明らかにします。

富山県産スギが選ばれる3つの理由

かつては価格や流通面で輸入材に押されていた国産材が、今再び脚光を浴びています。そのなかでも富山県産スギは、環境配慮、政策支援、素材の実用性という3つの観点から高く評価されています。

環境配慮:脱炭素社会への貢献

木材は、成長過程で大気中の二酸化炭素(CO₂)を吸収・固定する特性を持ちます。伐採された木材は炭素を固定したまま建築物に使われるため、脱炭素社会の実現に大きく貢献します。

富山県産スギは、このCO₂固定能力においても高い効果を発揮します。地域内で伐採・加工・利用されることで、運搬によるCO₂排出も最小限に抑えられます。

CO₂固定量の明確な効果
スギ材1㎥あたり約0.9トンのCO₂を固定することができます。これは乗用車1台が約3か月間に排出するCO₂量に相当します。

伐採から利用までの循環資源
伐採→加工→建築利用→再植林という循環型のサイクルが整っており、森林資源を持続的に利用できます。

輸送エネルギーの削減
富山県内で生産されるため、輸送距離が短く、燃料使用量や排出ガスを抑制できます。

このように、富山県産スギは単なる建材ではなく、地球環境への負荷を抑えた「環境配慮型資材」として活用価値が高い素材です。

政策支援:地域材利用の推進

国や地方自治体は、地域材の利用促進を積極的に支援しています。富山県でも県産木材の利用を推進する各種施策が実施されています。

「とやまの木で家づくり支援事業」
富山県内で住宅建築に県産材を一定量使用した場合、最大40万円の補助金を交付しています。

公共建築物等木材利用促進法
国の政策として、住宅を含む建築物へ木材使用を義務づけることで、県産材の需要拡大に寄与しています。

地域森林整備計画との連携
富山県は地域の森林計画と木材利用政策を一体的に運用し、持続可能な林業を支えています。

こうした制度は、建築事業者にとっても材料選定の安心材料となり、コスト抑制や補助金活用のメリットを提供します。

公共・民間問わず、富山県産スギを採用することで制度的な優遇を受けられるため、選択肢として非常に魅力的です。

実用性:材料としての優れた特性

富山県産スギは、建築材料としての基本性能においても非常に高い評価を得ています。とくに以下の特性が注目されています。

軽量で扱いやすい
スギは比重が低く、乾燥状態で約0.38と軽量です。現場での運搬や施工が容易です。

加工性に優れる
柔らかく加工しやすいため、精密な木工にも対応可能。プレカット加工や細工にも適しています。

断熱性が高い
木材はもともと断熱性に優れており、スギは空隙率が高く、優れた断熱効果を発揮します。

防腐・防蟻処理の相性が良い
加圧式防腐処理や天然素材系塗料との親和性が高く、耐久性向上が図れます。

意匠性に優れる赤身の美しさ
富山県産スギは、赤身(心材)と白太(辺材)のコントラストが美しく、和風建築や自然素材の空間演出に最適です。

建材としての実用性が高く、デザイン性にも富む富山県産スギは、設計者・施主の双方にとって魅力ある選択肢となっています。

富山県産スギの物性と実用性

建材としての選定では、強度や耐久性、加工のしやすさが重視されます。富山県産スギはこれらの条件を高い水準で満たしており、実際の使用においても信頼性が確立されています。

強度と耐久性の検証

富山県産スギは、建築資材として使用するために必要な強度や耐久性を十分に備えています。これまでの研究や実測データによって、その信頼性が裏付けられています。

曲げ強度の安定性
JAS(日本農林規格)による試験で、富山県産スギの平均曲げ強度は40N/mm²前後とされ、構造材として十分な性能を持ちます。

含水率と寸法安定性
適切に乾燥処理された富山県産スギは含水率が20%以下に保たれ、寸法安定性が高く、施工後の変形や割れのリスクを抑えられます。

心材の耐朽性
スギの心材(赤身)は天然の抗菌成分を含み、白太(辺材)と比較して高い耐朽性があります。湿潤な地域ではこの特性が評価されています。

経年劣化の穏やかさ
時間の経過とともに色味は落ち着き、自然な風合いに変化するため、メンテナンスコストも抑えられます。

これらの特性から、富山県産スギは土台や柱、梁といった主要構造材としても信頼性が高く、長寿命の木造建築に適しています。

加工性とデザイン性

富山県産スギは、加工のしやすさと高い意匠性により、内装材や外装材としても高い評価を受けています。

手加工・機械加工の両面に適応
柔らかく、繊維が素直なため、手工具・電動工具いずれでも加工がしやすく、施工現場での対応力に優れます。

表面仕上げの美しさ
刃物の通りが良いため、プレーナー仕上げやサンダー仕上げで滑らかな表面が得られ、化粧材としても魅力的です。

節のバリエーションを活かした設計
節のあるデザインは素朴で親しみやすく、ナチュラル志向の住宅や店舗で好まれます。逆に節なし材は高級感のある仕上がりを実現します。

調湿性と快適性
木材は呼吸する素材であり、室内の湿度を調整する効果があります。富山県産スギもその特性を有し、快適な住空間を実現します。

音響効果への貢献
柔らかい木質は音をやわらかく反射し、音環境の改善にも寄与するため、幼稚園・保育園・ホールなどにも活用されています。

これらの特性から、富山県産スギは住宅における床・壁・天井だけでなく、店舗設計や公共空間の演出にも広く用いられています。

地域経済と富山県産スギ

富山県産スギの利用は、単なる環境対応にとどまらず、地域経済の活性化にも大きく寄与しています。林業の再生や地元雇用の創出、地産地消の推進など、多面的な効果をもたらしているのです。

林業の再生と雇用創出

富山県産スギの利用は、地域の林業活性化に直結しています。戦後に植林されたスギが伐期を迎えた現在、県内では計画的な伐採と再造林が求められています。

伐採から再植林までのサイクル確立
富山県では、森林組合や林業事業体が主体となり、伐採後の再植林が行われ、持続的な林業経営が支えられています。

地域内での加工・流通体制の強化
県内には製材所・加工施設が整備されており、木材の付加価値を地元で生み出せる体制が整っています。利益が県外に流出することなく、地域経済に還元されます。

林業関連雇用の創出
伐採、運搬、製材、施工といった各工程に人手が必要であり、地域材利用が林業従事者の雇用安定につながっています。

若手人材のUターン・Iターン促進
地域資源を活かす林業・木材産業は、地元に根ざした働き方として注目されており、若年層の就業にも一定の効果を上げています。

富山県産スギを選ぶことは、単なる建材の選定を超えて、地域社会の再生と持続的発展に貢献する選択でもあります。

地産地消の推進

木材の地産地消は、エネルギー効率や経済循環の観点からも大きな意義を持っています。富山県内で生産されたスギを、県内の建築物に使用することで、多方面に好影響がもたらされます。

輸送コストと環境負荷の軽減
輸入材や他地域材に比べ、輸送距離が短いため、燃料コストが抑えられ、CO₂排出も削減されます。

災害時の供給安定性
外部輸送に頼らず、地域内で調達できるため、災害や物流混乱時にも安定供給が期待できます。

地元産業の活性化
地元で調達し、地元で使用することで、経済的利益が域内にとどまり、関連産業の活性化が進みます。

地域への誇りと文化継承
富山県産の素材を用いた建築は、住まい手に「地元とのつながり」や「郷土への誇り」を感じさせるものとなり、地域文化の継承にも寄与します。

地産地消の観点からも、富山県産スギの利用は、持続可能でローカルな社会を築くための重要な選択肢です。

富山県産スギの未来展望

持続可能な素材として注目される富山県産スギは、その価値を拡張し続けています。無花粉スギの導入やCLT、プレカットなどの技術革新によって、今後の用途や市場も広がっています。

無花粉スギ「立山 森の輝き」の普及

花粉症の増加に対応する形で、富山県では無花粉スギの開発と普及が進められています。その代表格が「立山 森の輝き」です。

無花粉スギの特性
「立山 森の輝き」は、スギの品種改良により花粉を飛ばさない特性を持ち、花粉症対策として非常に効果的です。DNAレベルで花粉形成機能が抑制されており、安定的に無花粉であることが確認されています。

林業の未来を支える技術
花粉を嫌ってスギ林の伐採が進むなか、無花粉スギはスギ林の存続と利用促進の両立を可能にする技術です。林業者や自治体にとっても、新たな需要創出の武器となります。

建築利用にも対応
通常のスギ材と同等の強度・加工性を持ち、構造材・内装材としても遜色なく使用できます。見た目や性能に違いがないため、従来と同様に設計・施工が可能です。

県内での普及と苗木生産体制
富山県ではこの無花粉スギの植林が進んでおり、将来的に一般流通材としての普及が見込まれています。すでに苗木の生産が軌道に乗り始めており、10年後・20年後の林業を見据えた布石となっています。

「立山 森の輝き」は、環境問題への具体的な解決策であり、富山県産スギの持続的利用における新たな展開を示しています。

技術革新と新たな可能性

富山県産スギの価値は、単なる素材としての性能にとどまりません。加工技術や設計技術の進歩により、その用途は広がっています。

CLT(直交集成板)への活用
スギ材を用いたCLTは、耐震性や断熱性に優れた大型パネル建築への応用が進んでいます。富山県産スギもCLT用材としての品質が評価されています。

木材ハイブリッド構造への応用
鉄骨やコンクリートとスギ材を組み合わせたハイブリッド構造により、木材の意匠性と構造強度の両立が可能です。都市部でも木材を使った中高層建築への展開が期待されています。

プレカット技術の進化
工場加工による精密なプレカット技術が発達し、富山県産スギもその加工材として多く採用されています。現場施工の効率化が進んでいます。

環境建築への統合的活用
建築設計の初期段階から地域材利用を前提にした設計が行われるようになっており、富山県産スギは脱炭素建築・ゼロエネルギー住宅(ZEH)の重要な構成要素となっています。

このように、技術革新は富山県産スギの可能性を広げており、将来的には建築資材としてだけでなく、新素材や工業用途にも展開が期待されます。

まとめ

富山県産スギは、環境への配慮、政策支援の充実、そして建築材料としての優れた実用性を兼ね備えた、極めて価値の高い国産材です。

脱炭素社会の実現に向けたCO₂固定能力、地域材利用促進による経済循環、そして軽量性・加工性・耐久性といった素材としての魅力が、今改めて注目されています。

とりわけ、「地域材は高価で使いづらい」という従来のイメージは、制度面の支援や技術革新によって大きく変わりつつあります。実際、富山県では補助金制度や加工インフラの整備が進み、導入障壁が大きく下がっています。

さらに、花粉症対策として期待される無花粉スギ「立山 森の輝き」や、CLTなどの新技術への対応といった未来志向の取り組みは、富山県産スギのポテンシャルを一層高めています。

設計者にとっては、環境性能とデザイン性を両立する選択肢として、工務店にとってはコストと安定供給を見込める材料として、そして施主にとっては安心・安全で心地よい住空間を実現する素材として、富山県産スギは今選ぶべき木材であると言い切れます。

これからの建築において、地域と自然、そして未来につながる価値ある素材として、富山県産スギの存在感はますます高まっていくでしょう。